データセンタ空調の話(さくらインターネット様「SAKURA Partner Meetup in 北海道 2025」に参加してきました2)

年三日坊主のKKです。

もう11月も終わってしまいましたが、10月末からはすっかり冬という感じで、秋はあっという間でしたね。


 前回に引き続き「SAKURA Partner Meetup in 北海道 2025」参加の感想を書き残しておきます。

SAKURA Partner Meetup in 北海道 2025
https://lp.sakura.ad.jp/202509_partnermeetup_hokkaido.html

データセンタ見学の見所とは

 さて、前回はデータセンタ見学前の座学の話まで書きましたが、続いては石狩データセンタの見学でした。
 実質的にこれがメインイベントと言って過言ではないですが、皆さんは「データセンタの見学」と聞いて何を見ることを期待されますでしょうか。

例えば、建屋の耐震性・耐荷重、給配電能力、防火設備、入退管理、セキュリティ、ネットワーク引き込みの自由度などなど、それぞれ思い浮かべるものはいろいろあるかと思いますが、今回は冷却系の話をします。

※注
データセンター見学ということで当然撮影禁止でしたので写真がありません。
幸いメディア取材なども多いデータセンターなので、各社のサイトで公開されている資料をあわせてご紹介します。

データセンター(電子計算機センター)の冷却

 データセンターあるいは電子計算機センター(電算センタ)と呼ばれていたコンピュータシステムを集中管理運用する専用ビルにおいて、コンピュータの多くは60センチから80センチ幅の「サーバーラック」に格納されて機械室(マシンルーム)に収容されています。
 従って、そのコンピュータの冷却もラック単位で行われます。

 かつての電算センターでは床を2重化して床下に空調機から冷気を吹き込みラックの真下やラック間の通路床下からの「吹上空調」でサーバの冷却を行うことが多かったです。
 弊社のデータセンターも古い規格のため、床下からの吹上空調です。
 図にすると上記のように床下から冷気を供給し、温排気は天井裏から排気されていました。

 この方式にはいくつか問題があり、その一つがラックからの温排気と床下からの冷気が混ざってしまうため、ラック上段の冷却効率が悪いということです。

 これを解決するために冷気と温排気が混ざらないようにすることが考えられました。
 図にすると上記のように排気を出す通路と冷気を供給する通路を分け、冷気と温排気が混ざらないように仕切りを設ける「アイルキャッピング」という方法です。
 特に温排気を閉じ込めて天井裏から排気する方式を「ホットアイルキャッピング」と呼びます。
 弊社のデータセンターではこの方式で冷却効率を高めています。

 ただし、2重床には他にも大きな問題がありました。
 それは耐荷重です。
 建物の床の上に更に柱を立てて床を追加しているので2重床を支える柱の強度がラックの重さの上限を決めてしまうという問題です。
 アイルキャッピングによって冷却効率が上がったことで一つのラックに隙間なくサーバを詰め込んだり、ブレードサーバやストレージアレイのように高密度で非常に重い機器が増えたことも影響しています。

 そういった問題の指摘されるようになった2010年代始めに設計された石狩データセンターは、この問題を解決するために2重床をやめて建屋の床に直接ラックを立架する設計になっています。
 では、従来床下から供給していた空調の冷気はどこから供給するのでしょうか。
 それが、石狩データセンターの空調の見所です。

石狩データセンターの空調はバリエーション豊か

さて、2重床をやめてどこから冷気を供給するか、部屋の床以外となると「天井」か「壁」ということになります。
ここでさくらインターネットさんの面白いところは、「天井」と「壁」の両方を実際に作って比較したところです。
まずはアイルキャッピングに天井吹き出し空調を組み合わせたサーバ室A。
床下からの吹上空調が天井からの吹き出しに変わっただけです。


次はアイルキャッピングではなく各ラックにそれぞれ天井裏直結の排気筒を取り付けてサーバ室内に温排気を一切出さない方式。


最後が天井吹き出し空調ではなく壁吹出し空調に排気筒を組み合わせた方式。

見学の際にはそれぞれの冷却効率だけでなく施工の手間や日常のメンテナンス運用における保守員の負担など、様々な観点で各方式が評価されて、データセンタの増床計画に反映されたことを説明して頂きました。

そして、データセンター見学は増床された新エリアへと入っていきます。

新エリアでは開設時に複数設定された冷却方式の評価結果を踏まえて、アイルキャッピングに壁吹出し空調を組み合わせた方式が取られていました。

これもまた面白く、これだけいろいろな方式を一度に見学できる機会というのはなかなか無いので大変興味深かったです。

なお、こういった冷却方式の違いによる冷却性能の評価については「外気冷房を導入したデータセンターの性能評価に関する研究」として大学や建設会社などにより論文化されてもいます。

論文のタイトルにもあるとおり、石狩データセンターの空調の特徴としては、他にも北海道の冷涼な外気を活用していることもあり、この部分に関する設備の見学も大変興味深かったことも付け加えておきます。

もし、石狩データセンターに限らずデータセンターの見学をする機会があれば、このような空調方式の違いにも着目して頂ければと思います。