年三日坊主のKKです。
紅葉も進んでいないのに、あっという間に秋が終わって冬を感じる今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。
2024年6月に出版された「サイバースペースの地政学」という新書を読んで思うところがいろいろありましたので、書評というほどのものではない雑感を何回かに分けて書いていこうと思います。
「サイバースペースの地政学(ハヤカワ新書)」は、セイバーセキュリティの専門家である小宮山 功一朗さんと、ロシアの軍事・安全保障が専門である小泉 悠さんの共著で電脳空間(サイバースペース)を成立させている現実のインフラ(物理設備)について、主にデータセンターと海底通信ケーブルの立地に着目しつつ、現代の国際的な安全保障や社会的な課題との関係について解説・考察されています。
序文が公式に公開されているので「小宮山功一朗×小泉悠 最強コンビのサイバー旅行記!『サイバースペースの地政学』特別試し読み」を読んで頂く方が雰囲気は掴みやすいかと思いますが、拙僧的には一般にあまり知られていないデータセンターと海底通信ケーブルという存在を簡潔に解説して頂いている点が一番うれしかったです。
データセンターや海底通信ケーブルのようなものの解説というのは、どうしても専門的にならざるを得ないため、一般の方が気楽に読むには前提が多すぎて気楽に読むには重すぎることが多い印象です。
そんな中で安全保障という視点からデータセンターの解説として必要十分な内容の取捨選択と取材旅行記としての記事の読みやすさが一般の方が気楽に読むのにちょうど良いと思います。
(データセンターをかじってる人間からすると、なんでアレを書かないのか、と思うテーマやトピックについて、落とした理由を考えるのも面白いです。)
さて、そんな「サイバースペースの地政学」を読んでいて拙僧が最初に思い出したのは、旧電電公社系のデータセンターに勤めていた頃に団塊世代のおじいちゃんから聞いた
「逓信省時代の電話局ビルは太平洋戦争の戦訓から爆撃に耐えるように設計されている」
という与太話でした。
逓信省というのは現在の日本郵政とNTT、KDDIの元になった郵便・貯金・保険・電信・電話を所管していた中央官庁ですが、逓信省にはその業務に必要な建物を作ったり直したりする部門(逓信省営繕課)がありました。
そのような逓信省によって生み出された建築物には独特の個性があり、逓信建築と総称されています。
そんな逓信建築の特徴の一つは標準化です。
平成以前に建築された郵便局や電話局はどこもよく似たデザインだったことを覚えていらっしゃるでしょうか。
これは標準設計という「どこに建てても機能的な優れた設計」を元に日本全国で同じように建築されたためです。
この標準設計にはそれまでの建築物の良さと改善点が盛り込まれるため、戦後の設計には戦中の教訓が反映されているハズ、というのが団塊世代のおじいちゃんの言い分なわけです。
実際のところは終戦間際に総理大臣官邸の隣に建てられた電話局が防空壕としての機能を持つ特別な設計であったことが伝聞の過程で一般化されて出来上がった与太話のようで、逓信省時代の電話局ビルなら戦争になっても爆撃に耐えられるなどという根拠はありません。
ただし、この総理大臣官邸の隣に建てられた窓の無い変わったデザインの電話局自体は「国防電話局」とも呼ばれる極めて堅牢な建物だったそうです。
また、この国防電話局(正式には「東京中央電話局麹町分局」)を設計した逓信省営繕課の山田守が戦前に設計した広島中央電話局西分局(現在のNTT西日本十日市ビル)は広島の原爆爆心地から1キロほどにありながら全壊を免れて現在でもNTT広島西営業所として利用されていますので、電話局が非常に堅牢に建てられていること自体はウソではありません。
阪神淡路大震災や東日本大震災のような巨大地震でも電話局ビルが倒壊した事例はほとんどないハズです。
例えば、こちらの神戸市広報のポストに添付された阪神淡路大震災当時の写真では倒壊した銀行のビルの奥に巨大な赤白の鉄塔が設置されている無傷の電話局ビル(当時の神戸大開電話局、現在のNTTコム神戸大開ビル)の姿があります。
写真提供:神戸市(「阪神・淡路大震災『1.17の記録』」)
地震などのような災害であれ戦争であれ、社会に大きな影響を及ぼす非常事態にあって、社会インフラとしての通信を維持するための設備を収めた建物が堅牢である必要があることは論を待ちません。
「サイバースペースの地政学」ではデータセンターの起源の一つを電話局の空きスペース活用と紹介しているのですが、このようにデータセンター前史という視点で電話局の建物を眺めてみるのも面白いと思います。
最後になりましたが、今回の記事では「電話局の写真館(denwakyoku.jp)」のページのへのリンクをたくさんご紹介していますが、傑作電話局一覧や特選おすすめの電話局一覧なども興味深いので、ぜひご覧になって下さい。