人為ミスは原因ではなく結果である(コラム)

古都の老兵
2023-07-07
2023-07-07

はじめに

よくシステムトラブル等が発生した原因は人為ミスによるものだとされる事がある。
確かにトラブルの直接の原因は人為的なミスによって引き起こされたと言えるだろうが、人為ミスに至る根本的な原因、要因を見付け出し解決しなければ同じミスは繰り返される。

人為ミスとは原因ではなく結果なのである。

JR西日本福知山線脱線事故

よく企業等の不祥事の謝罪会見で、「今回の原因は人為的なミスによるものでした。今後は社員教育を徹底して再発防止に努めます」といったセリフを良く聞きます。
しかし本当にこれで人為ミス、不祥事は起こらないようになるのでしょうか。

過去の有名な事例として、2005年に起きたJR西日本福知山線脱線事故に見る事ができます。

事故当時、会社は運転士に責任を押し付けようとしていましたが、航空・鉄道事故調査委員会による事故原因の解明が進められ、最終報告書には以下の原因が述べられています。

「本事故は、本件運転士のブレーキ使用が遅れたため、本件列車が半径304mの右曲線に制限速度70km/h を大幅に超える約116km/h で進入し、1両目が左へ転倒するように脱線し、続いて2両目から5両目が脱線したことによるものと推定される。」
「本件運転士のブレーキ使用が遅れたことについては、虚偽報告を求める車内電話を切られたと思い本件車掌と輸送指令員との交信に特段の注意を払っていたこと、日勤教育を受けさせられることを懸念するなどして言い訳等を考えていたこと等から、注意が運転からそれたことによるものと考えられる。」
「本件運転士が虚偽報告を求める車内電話をかけたこと及び注意が運転からそれたことについては、インシデント等を発生させた運転士にペナルティであると受け取られることのある日勤教育又は懲戒処分等を行い、その報告を怠り又は虚偽報告を行った運転士にはより厳しい日勤教育又は懲戒処分等を行うという同社の運転士管理方法が関与した可能性が考えられる。」

つまり、直接的な原因は運転士のブレーキの遅れではあるが、ブレーキ使用が遅れたのは日頃の列車の遅延等での厳しい日勤教育又は懲戒処分等を行うという同社の運転士管理方法に問題があったとされたのである。
列車の安全性よりも収益を優先させた結果、ダイヤ改正で速度アップと高密度ダイヤを決定、運転士の負担となり、更に運転ミス等にはペナルティが課せられるというという精神的なプレッシャーとなり引き起こされたものと考えられる。

最後に

特に日本企業は、「失敗を個人の責任に押し付けて蓋をしてしまう傾向が強い」と言いわれます。恐らくこの原因の1つの要因として日本の報道は何か事件があると直ぐに犯人捜しに傾向し、責任者を糾弾したがります。その為内部で責任の押し付け合いが始まり、責任を逃れる為に違った説明を証言したりと根本的な原因が解明されないまま曖昧にされてしまう事がありがちです。
日本のマスコミは特に事が起こると直ぐに社長の責任、進退、と問い詰めるような報道が目立ちます。
安全対策マニュアルは犠牲者の血で書かれているような事が言われますが、責任追及の前にまずは根本原因の解明が無く誰かに責任を押し付けて溜飲を下げてるだでは犠牲者も浮かばれないのではないだろうか。